■ 設計のコンセプトの考え方が良くわからない…
■ 良いコンセプトが思い付かない…
■ コンセプトの具体例が知りたい!
設計課題においてコンセプトはとても重要です。
コンセプトが思い付かなかったり、冴えないコンセプトだと「頑張って設計したのに全然評価されない」という状況に陥ってしまうこともよくあります。
特に初心者はなんとなくコンセプトを決めて失敗することが沢山あります
そこでこの記事では、建築学生向けにコンセプトの失敗しない考え方と事例紹介を行います。
この記事を参考にしてコンセプトを作成すれば、提案のクオリティが上がり設計課題で失敗することはないはずです。
コンセプトとは
コンセプトは直訳すると「概念・観点・考え方」となりますが、
コンセプトを立てることで、下記のような効果があります。
■ 自分の頭の中を整理できる
■ プレゼンテーションがしやすくなる
➡︎さらにコンセプトという用語自体の解説を読みたい方はこちら
言語化をして頭の中を整理できる
コンセプトを立てることで自分の頭の中を整理することができます。
建築はとても多くの与件があり複雑です。
複雑なものをそのまま設計案に変換しようとすると頭がこんがらがり、
何をしたいのか分からなくなってしまいます。
そこで自分の中で特に優先すべきキーワードを挙げて、それをコンセプトに据えることで優先順位がつき提案にまとまりが生まれます。
設計案のイメージが湧くようになり、設計を進めやすくなります
基本的に形状も空間も配置も、すべての検討をコンセプト目掛けて行うことで目的が明快な設計案となります。
プレゼンテーションがしやすくなる
コンセプトは全体像を示すテーマとも言い換えられます。
設計案を説明するときに、
「この部屋は◯◯で〜」
「庭は△△で〜」
「屋根は□□で〜」
と場所ごとにバラバラな説明をしても、
聞いた側は結局何がしたいんだろう?と頭に入ってきません。
まずは全体を示すテーマを説明して、その上で個々の場所の説明に移っていけば、聞く側も理解がしやすくなります。
プレゼンテーションで他者と共有するためには、全体像を示す必要があります。
appleの製品発表を見ると物凄く内容が簡潔にまとめられていますよね!
TEDのプレゼンテーションなんかも非常に勉強になるので、ぜひご覧になってみてください。
コンセプトは漠然としすぎていてはいけない
コンセプトは全体を示すテーマですが、
あまりにも広範なことを示していたり、漠然としていると設計案の内容が伝わりません。
例えば椅子の説明をするとしましょう。
「座りやすい椅子」というざっくりとしたコンセプトを掲げるよりも、
「体にフィットする形状の椅子」とか
「素材を自分でカスタマイズできる椅子」とか
「人間工学に基づいた椅子」とか
具体性を持たせた方が聞き手がイメージしやすいですよね。
頭の整理にもなるしプレゼンテーションもしやすくなります。
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コンセプト作成の手順
コンセプト作成は自己流で行なっている人がほとんどだと思いますが、
間違った手順だといつまでも内容がまとまりません。
相手に伝わらないどころか、自分でもやりたいことが理解できていないことも多々あります。
コンセプト作成の目的を念頭において手順を踏みましょう。
■ 自分の頭の中を整理できる
■ プレゼンテーションがしやすくなる
この記事を見ながら手順を意識してコンセプトを作成してみましょう
設計内容に影響がありそうな与件を列記しましょう。
敷地形状・土地の歴史・気候・方角・眺望・用途・大きさ・高さなどに関してできる限り仔細に観察して書きましょう。
ざっくりとグルーピングすることと、具体的に書き出すことがコツです。
一見関係なさそうなことが大きく設計内容に影響を与えることもあるので取りこぼしに注意です。
設計上重要になりそうな言葉を、一旦与件を意識しすぎないように列記しましょう。
抽象的なことから具体的なものまで、いろんな次元の話が混ざって構いません。
「快適性」「幾何学」「一人の場所」「自然の享受」「回遊性」「多世代交流」…
みたいな感じで思いつく限り自由に書きましょう。
あまり思い付かない〜という人もいると思いますが、その場合は雑誌を読んでインプット量を増すことで解決できます。
与件とキーワードを並べて見比べ、なんとなく関連できそうな部分を見つけましょう。
与件の特性を生かしてキーワードを成立させるというのが王道パターンだと思います。
この関連できそうな部分からコンセプトが生まれる可能性が高いです。
あとから変わることが前提で、コンセプトを仮決めしましょう。
この時点の仮決めしたコンセプトがそのまま最終コンセプトになる可能性は低いので、現段階で思い悩まずとも大丈夫です。
コンセプトという名の目標に向かって実際に設計の手を動かします。
スケッチをしたり模型をつくったり、図面を描いたりしましょう。
与件とキーワードの間を埋めるのが設計という意識で望むと良いでしょう。
ここまで言葉だったものに具体的な形を持たせるのがこのステップです。
素直にコンセプトに沿ってつくってみましょう。
仮作成した設計案を客観的に眺めてみましょう。
この時点で納得のいく案ができている人は少ないでしょう。
仮案を眺めて発見した良いところも悪いところも全て大切な学習材料です。
いろんな視点から徹底的に観察しましょう。
そしてそこで発見したことをコンセプトに還元して修正を加えます。
場合によっては丸々コンセプトを作り変えてしまいましょう。
修正されたコンセプトを元に再度設計案を作成します。
はじめに作成した設計案の模型やスケッチがある場合、(後ほど並べて見比べるために)それを修正するのではなくて別で一から作成しましょう。
コンセプトと設計案は合致度が大切です。
この2つに乖離があると意識的に設計することが困難ですし、説明も支離滅裂になります。
そのためにはコンセプト再考と設計案の再考を繰り返し往復することが最も有効です。
この回数が多いほど合致度は向上します。
設計課題の終盤には模型やスケッチがずら〜っと並んでいる状態になります。
着実に積み上げられたコンセプトと設計案が完成します。
自然と説得力や完成度の高さが滲み出ているはずです。あとは自信を持ってプレゼンしましょう!
コンセプト作成時の失敗例
コンセプト作成時の失敗例を3つ紹介します。
9割以上の人がどれかに当てはまっているといってもよい項目ですので、すべて頭に入れておきましょう。
■ コンセプトが設計内容を示せていない
■ コンセプトを後付けしている
■ コンセプトで設計を縛りすぎている
コンセプトが設計内容を示せていない
コンセプト・説明内容と設計案はシビアに合致していないといけません。
合致していないということは、自分の案に関して考え抜けていないということです。
高評価を得るためには、コンセプト・説明内容と設計案が必要十分条件の関係にある必要があります。
手を抜いてしまう人が多い印象ですが、優先的に時間を掛けるべき項目です
コンセプトを後付けしている
コンセプトの後付けは超上級者向けです。
よっぽどの卓越した言語化能力のある人でないとできません。
コンセプト・説明内容と設計案の合致度が非常に重要と話しましたが、後付けで合致度を確保することは非常に困難です。
作成の手順で解説したように、早めの段階から設計案とコンセプトを並行して考えるようにしましょう。
本当に合致度は重要です!
95%くらいの学生案はこの部分の詰めが甘く評価を下げています
コンセプトで設計を縛りすぎている
コンセプトの明快さ、説明のしやすさを優先しすぎて設計案の良さが損なわれているケースがあります。
合致度が重要と繰り返し述べていますが、それと同時に、設計案は一切の説明がなくとも魅力を感じるものでなければいけません。
合致度が高いことは素晴らしいことですが、設計案がそもそも良くないようであれば本末転倒です。
逆にいうと、コンセプトを表現できている設計案が良くないということは、コンセプト自体が失敗しているということです。
コンセプト⇔設計案の往復戦法はこの点でも有効です!
コンセプトにつながるキーワード事例紹介
ここからは、頻繁に使用されるコンセプトにつながるキーワード(テーマ・視点)を紹介します。
頻繁に使用されるということは、建築にとってとても大切なテーマということです。
今回紹介するキーワードはベースの知識として頭の片隅に置いておきましょう。
設計の際に手が止まってしまい困ったら、これらの視点から設計案を考えてみれば突破口になるはずです。
すべて語ると何万文字あっても足りないので、一言ずつコメントをしていきます。キーワードを示す建築や建築家、書籍も紹介しますのでセットでご覧ください。
- 内外の連続性
→ 内部空間と外部空間に一体感を持たせる提案です、最も多く取り上げられるコンセプトです。
参考:日本建築、オスカー・ニーマイヤー、ジョアン・ヴィラノヴァ・アルティガス など - 曖昧な境界
→ 内外や部屋などの境界を曖昧にして距離感を操作する提案
参考:HOUSE N(藤本壮介)、神奈川工科大学KAIT工房(石上純也) など - 空間の連続性
→ 連続した空間によって複数の場所を共存させる提案
参考:ロレックス・ラーニング・センター(SANAA)、梅林の家(妹島和世)など - 光の取り入れ方
→ 空間における最重要要素である自然光を主題に扱う提案
参考:キンベル美術館(ルイス・カーン)、スティーヴン・ホール など - 空間認知(視覚、触覚、聴覚)
→ 視覚に留まらず、触覚や聴覚に訴えかける提案
参考:『建築と触覚: 空間と五感をめぐる哲学』、豊島美術館(西沢立衛) など - フレキシビリティ
→ 用途や時代変化に合わせ柔軟に対応が可能な提案
参考:ミース・ファンデル・ローエ、メタボリズム など - 原っぱ性
→使い方を規定せず、それでいて何かしらの行動を誘発する空間の提案
参考:『原っぱと遊園地』、仙台メディアテーク(伊東豊雄) など - 身体性
→ 人間が動物的に振る舞い、身体性を実感しやすくなる提案
参考:ふじようちえん(手塚建築研究所)、次世代モクバン(藤本壮介) など - 知的生産性の向上
→ オフィスや研究施設などにおいて創造性を向上させる仕掛けの提案
参考:小堀哲夫建築設計事務所、日建設計 など - コミュニケーションの誘発
→ 人のつながりを生み出し豊かな関係を築かせる仕掛けの提案
参考:成瀬・猪熊建築設計事務所、小堀哲夫建築設計事務所 など - 共同体
→ 集団のコミュニケーションや連帯感などに関する提案
参考:『集落の教え100』、森山邸(西沢立衛) - 公共性
→ 誰かが占有するのではなく、不特定の人々に開かれた空間の提案
参考:大分県立美術館(坂茂)、代官山ヒルサイドテラス(槇文彦) など - 風土、土着性
→ その土地の環境や文化を尊重した上で、それらの性質を帯びた提案
参考:『建築家なしの建築』、ピーター・ズントー など - プログラムの改善
→ ある用途固有の問題点や特性に着目し向上させる提案
参考:流山市立おおたかの森小中学校(C+A)、NICCA イノベーションセンター(小堀哲夫建築設計事務所) - プログラムの開拓
→ 用途同士の掛け合わせ等によって新たな用途を開拓する提案
参考:代官山 T-SITE(クライン・ダイサム・アーキテクツ)、食堂付きアパート(仲建築設計スタジオ) - 自然環境の活用
→ 自然光や風、温湿度などを生かして豊かな空間とする提案
参考:三分一博志、SUEP など - 設計手法の開拓
→ 手法自体に着目し、独自の設計へとつなげる提案
参考:『パタン・ランゲージ―環境設計の手引』、ダイアグラム など - 仔細な観察
→ 普段見逃すような仔細な事物に着目する、発見的な提案
参考:『小さな風景からの学び』、アトリエ・ワン など - 幾何学の追求
→ 図形的な形態を探求し新たな可能性を提示する提案
参考:ルイス・カーン、ヴァレリオ・オルジャティ、篠原一男 など - アルゴリズムの開発
→コンピューティング技術を駆使してデザインを行う提案
参考:『アルゴリズミック・アーキテクチュア』、noiz architects など - シークエンス
→ ひと続きの空間を移動していく中で変化のある空間を体験させる提案
参考:ル・コルビュジェ、安藤忠雄 など - 建築エレメントの再考
→ 柱や基礎、窓などの既存のエレメントに対して新たな可能性を提示する提案
参考:仙台メディアテーク(伊東豊雄)、増田信吾+大坪克亘 など - イメージ(記号)
→ 記号的な形を用いて特定の方向へのイメージを誘引する提案
参考:ロバート・ヴェンチューリ、M2(隈研吾) 、Tokyo Apartment(藤本壮介)など - 歴史の参照
→ 過去の文化を解釈し、現代に再編する提案
参考:香川県庁舎(丹下健三)、村野藤吾 など - 時間の積層
→ リノベーションあるいは長期間掛けた計画によって通常の新築では獲得できない質を得ている提案
参考:カステルヴェッキオ美術館(カルロ・スカルパ)、スキーマ建築計画 など
コンセプトはこれ以外にも沢山ありますので、囚われる必要はありませんよ!
コンセプトの考え方や具体例の解説してきました。コンセプトは設計の根幹部分であり、この根幹は絶対に間違えられない大切な部分です。
コンセプト選定や設計案との整合性はなんとなくで行わずに、時間を掛けて取り組みましょう。
コンセプトとも密接に関わってくる設計課題の重要なポイントを以下の記事で解説しています。
➡︎【超根幹】設計課題は3つの評価軸から成っている
おそらく誰も言語化していない設計課題の評価軸を解説しています。
設計課題で有利になること間違いなしです。