■ 設計のコンセプトの考え方が良くわからない…
■ 良いコンセプトが思い付かない…
■ コンセプトの具体例が知りたい!
『コンセプトが大切』ってよく言われるけど、全然思い付かなくてなんとなく書いちゃうんだよね…
コンセプトが良くないと、頑張って設計しても残念ながら評価に結びつきにくいよ。
う〜ん、でもなにから考えたら良いのか…。
正直、良いコンセプトってのがそもそもよく分からないんだよね。
それにはまず、コンセプトの役割を理解するところから始めるのが良いよ。
役割が理解できれば良いコンセプトが分かるようになるし、作れるようにもなるよ!
コンセプトが思い付かなかったり冴えないコンセプトだと「頑張って設計したのに全然評価されない…」という状況に陥ってしまうことがよくあります。
特に設計初心者はなんとなくコンセプトを決めて失敗することが沢山あると思います。
そこでこの記事では、建築学生向けにコンセプトの失敗しない考え方と事例紹介を行います。
この記事を参考にしてコンセプトを作成すれば失敗することはないはずです。
⬇︎さらにコンセプトメイキングに関する情報を網羅的にまとめた完全版もございます。
これまでの記事やinstagramの設計力を上げる方法の総まとめ記事です。体系的に学べます。
1000冊以上読んだ私がつくりました。ここから選べば間違いありません。
課題中盤~後半に活用すれば評価アップ間違いなし。
コンセプトとは
コンセプトは直訳すると「概念・観点・考え方」となりますが、
コンセプトを立てることで次のような効果があります。
⚪︎自分の頭の中を整理できる
⚪︎プレゼンテーションがしやすくなる
➡︎さらにコンセプトという用語自体の解説を読みたい方はこちら
自分の頭の中を整理できる
コンセプトを立てると頭の中が整理されるって、どういうこと?
コンセプトは設計の最も大切な考えのこと。つまり、コンセプトを考えることは、その設計でなにが一番大切なのか考えることなんだ。
なるほど〜。設計の中で優先することを決めるってことか。
そうそう!優先すべきことがはっきりすると考えがまとまりやすくなるよ。
建築はとても多くの与件があり複雑です。
複雑なものをそのまま設計案に変換しようとすると頭がこんがらがり、何をしたいのか自分でも分からなくなってしまいます。
そこで自分の中で特に優先すべきキーワードを挙げてコンセプトに据えることで、優先順位が生まれ提案がまとまります。
プレゼンテーションがしやすくなる
コンセプトは全体像を示すテーマです。
設計案を説明するときに、
「この部屋は◯◯で〜」
「庭は△△で〜」
「屋根は□□で〜」
と場所ごとにバラバラな説明をしても、聞いた側は「結局何がしたいんだろう…?」と頭に入ってきません。
場所ごとの説明やっちゃいがちだな〜。
場所ごとの説明はしてもいいんだけど、それが基本的に全てコンセプトに向かっていることが大切なんだ。
部屋とか庭とか屋根とかの細かいところもコンセプトの通りにした方が良いの…?
もちろん!コンセプトは全設計の中核だから、当然そうなるね。
そうだったのか、知らなかったよ!
まずは全体を示すコンセプトを説明し、その上で個々の場所にどう反映したのかを説明すると、聞く側も理解しやすくなるよ!
プレゼンテーションで他者と共有するためには、全体像を示す必要があります。
そして基本的に形状も空間も配置もすべての検討をコンセプト達成に向けて行うことによって、目的が明快な設計案がつくれます。
appleの製品発表を見ると毎回内容が簡潔にまとめられていますよね!
TEDのプレゼンテーションなんかも非常に勉強になるので、ぜひご覧になってみてください。
コンセプトは具体的すぎても漠然としすぎてもいけない
細かいところまでコンセプトに沿った方が良いのは分かりましたが、それができるコンセプト設定って意外と難しいですよね?
実はそうなんだ。コンセプトが具体的だと全体にまで反映することが難しいことが多い。例えば『窓』に着目したコンセプトの場合、屋根や庭などはあんまり関係ないしどうしようか…、と悩むことは設計課題のあるあるなんだ。
たしかに、言われてみれば経験あるかも。
コンセプトはふわっと曖昧にしといた方が良いってことだね!
ただそう単純な話でもない。曖昧すぎると、それを形に落とし込むのが難しいということも設計課題のあるあるだ。
以前に大きなテーマを扱おうと思ったときに、それが抽象的すぎて具体的な形が全然思い付かない、ということがありました。
だからコンセプトは具体的すぎでも漠然としすぎてもない、丁度良いバランス感覚が必要なんだ。それが上手くできるコンセプト作成手順を解説していくよ!
コンセプト作成の手順
コンセプト作成は自己流で行なっている人がほとんどだと思いますが、
間違った手順だといつまでも内容がまとまりません。
相手に伝わらないどころか、自分でもやりたいことが理解できていないことも多々あります。
コンセプト作成の目的をおさらいすると次の2つです。このことを念頭において手順を踏みましょう。
⚪︎自分の頭の中を整理できる
⚪︎プレゼンテーションがしやすくなる
設計内容に影響があると思われる与件を列記しましょう。
敷地形状・土地の歴史・気候・方角・眺望・用途・大きさ・高さなどに関してできる限り仔細に観察して書きましょう。
ざっくりとグルーピングすることと、具体的に書き出すことがコツです。
一見関係なさそうなことが大きく設計内容に影響を与えることもあるので取りこぼしに注意です。
設計上、重要になりそうな言葉を一旦与件を意識しすぎないように列記しましょう。
抽象的なことから具体的なものまで、いろんな次元の話が混ざって構いません。
「快適性」「幾何学」「一人の場所」「自然の享受」「回遊性」「多世代交流」…
みたいな感じで思いつく限り思うがままに書きましょう。
いくつも思い付かないんだよなあ。
そういう人は後で紹介するキーワード事例を参考にすると良いよ!
与件とキーワードを並べて見比べ、なんとなく関連できそうな部分を見つけましょう。
『与件』の特性を生かして『キーワード』を成立させるというのが王道パターンだと思います。
この関連できそうな部分からコンセプトが生まれる可能性が高いです。
あとから変わることが前提で、コンセプトを仮決めしましょう。
コンセプトという目標に向かって実際に設計の手を動かします。
スケッチをしたり模型をつくったり、図面を描いたりしましょう。
『与件』と『キーワード』の間を埋めるのが設計という意識で望むとうまくいくことが多いと思います。
ここまで言葉でしかなかったものに具体的な形を持たせるのがこのステップ。
素直にコンセプトに沿ってつくってみよう。
仮作成した設計案を客観的に眺めてみましょう。
この時点で納得のいく案ができている人は少ないでしょう。
仮案を眺めて発見した良いところも悪いところも全て大切な学習材料です。
いろんな視点から徹底的に観察しましょう。
そしてそこで発見したことをコンセプトに還元して修正を加えます。
場合によってはコンセプトを丸ごと作り変えてしまおう!
修正されたコンセプトを元に再度設計案を作成します。
はじめに作成した設計案の模型やスケッチがある場合、(後ほど並べて見比べるために)それを修正するのではなくて別で一から作成しましょう。
コンセプトと設計案は合致度が非常に重要です。
この2つに乖離があると意識的に設計することが困難ですし、説明も支離滅裂になります。
そのためにはコンセプト再考と設計案の再考を繰り返し往復することが最も有効です。
この回数が多いほど合致度は向上します。
設計課題の終盤には模型やスケッチがずら〜っと並んでいる状態になっているはず!
繰り返しが大切なのかあ。具体的には何回くらい繰り返せば良いの?
課題内容や期間によると思うけど、最低でも10回は繰り返そう!
そんなに…!頑張ってみるよ!
説得力や完成度の高さが滲み出ているコンセプトと設計案が完成します。
あとは自信を持ってプレゼンしましょう。
コンセプト作成時の失敗例
コンセプト作成時の失敗例を3つ紹介します。
9割以上の人がどれかに当てはまっているといってもよい項目ですので、すべて頭に入れておきましょう。
⚪︎コンセプトが設計内容を示せていない
⚪︎コンセプトを後付けしている
⚪︎コンセプトで設計を縛りすぎている
コンセプトが設計内容を示せていない
コンセプト・説明内容と設計案はシビアに合致していないといけません。
合致していないということは、自分の案に関して考え抜けていないということです。
高評価を得るためには、コンセプト・説明内容と設計案が必要十分条件の関係にある必要があります。
手を抜いてしまう人が多い印象ですが、優先的に時間を掛けるべき項目ですよ!
自分で理解していないときは、とくに説明が上手くできないよね。
コンセプトを後付けしている
コンセプトの後付けは超上級者向けです。
よっぽどの卓越した言語化能力のある人でないとできません。
コンセプト・説明内容と設計案の合致度が非常に重要と話しましたが、後付けで合致度を確保することは非常に困難です。
作成の手順で解説したように、早めの段階から設計案とコンセプトを並行して考えるようにしましょう。
コンセプトで設計を縛りすぎている
コンセプトの明快さ、説明のしやすさを優先しすぎて設計案の良さが損なわれているケースがあります。
合致度が重要と繰り返し述べていますが、それと同時に、設計案は一切の説明がなくとも魅力を感じるものでなければいけません。
合致度が高いことは素晴らしいことですが、設計案がそもそも良くないようであれば本末転倒です。
逆にいうと、コンセプトを表現できている設計案が良くないということは、コンセプト自体が失敗しているということです。
コンセプト⇔設計案の往復戦法はこの点でも有効です。
コンセプトにつながるキーワード事例紹介
ここからは、頻繁に使用されるコンセプトにつながるキーワード(テーマ・視点)を紹介します。
頻繁に使用されるということは、建築にとって大切なテーマということです。
今回紹介するキーワードはベースの知識として頭の片隅に置いておきましょう。
設計の際に手が止まってしまい困ったら、これらの視点から設計案を考えてみれば突破口になるはずです。
すべて語ると何万文字あっても足りないから、一言ずつコメントをしていくよ。キーワードを示す建築や建築家、書籍も紹介するからセットで確認しよう。
すごく大切なことが書かれている気がする…!!
- 内外の連続性
→ 内部空間と外部空間に一体感を持たせる提案です、最も多く取り上げられるコンセプトです。
参考:日本建築、オスカー・ニーマイヤー、ジョアン・ヴィラノヴァ・アルティガス など - 曖昧な境界
→ 内外や部屋などの境界を曖昧にして距離感を操作する提案
参考:HOUSE N(藤本壮介)、神奈川工科大学KAIT工房(石上純也) など - 空間の連続性
→ 連続した空間によって複数の場所を共存させる提案
参考:ロレックス・ラーニング・センター(SANAA)、梅林の家(妹島和世)など - 光の取り入れ方
→ 空間における最重要要素である自然光を主題に扱う提案
参考:キンベル美術館(ルイス・カーン)、スティーヴン・ホール など - 空間認知(視覚、触覚、聴覚)
→ 視覚に留まらず、触覚や聴覚に訴えかける提案
参考:⇩『建築と触覚: 空間と五感をめぐる哲学』、豊島美術館(西沢立衛) など
- フレキシビリティ
→ 用途や時代変化に合わせ柔軟に対応が可能な提案
参考:ミース・ファンデル・ローエ、メタボリズム など - 原っぱ性
→使い方を規定せず、それでいて何かしらの行動を誘発する空間の提案
参考:⇩『原っぱと遊園地』、仙台メディアテーク(伊東豊雄) など
- 身体性
→ 人間が動物的に振る舞い、身体性を実感しやすくなる提案
参考:ふじようちえん(手塚建築研究所)、次世代モクバン(藤本壮介) など - 知的生産性の向上
→ オフィスや研究施設などにおいて創造性を向上させる仕掛けの提案
参考:小堀哲夫建築設計事務所、日建設計 など - コミュニケーションの誘発
→ 人のつながりを生み出し豊かな関係を築かせる仕掛けの提案
参考:成瀬・猪熊建築設計事務所、小堀哲夫建築設計事務所 など - 共同体
→ 集団のコミュニケーションや連帯感などに関する提案
参考:⇩『集落の教え100』、森山邸(西沢立衛)など
- 公共性
→ 誰かが占有するのではなく、不特定の人々に開かれた空間の提案
参考:大分県立美術館(坂茂)、代官山ヒルサイドテラス(槇文彦) など - 風土、土着性
→ その土地の環境や文化を尊重した上で、それらの性質を帯びた提案
参考:⇩『建築家なしの建築』、ピーター・ズントー など
- プログラムの改善
→ ある用途固有の問題点や特性に着目し向上させる提案
参考:流山市立おおたかの森小中学校(C+A)、NICCA イノベーションセンター(小堀哲夫建築設計事務所) - プログラムの開拓
→ 用途同士の掛け合わせ等によって新たな用途を開拓する提案
参考:代官山 T-SITE(クライン・ダイサム・アーキテクツ)、食堂付きアパート(仲建築設計スタジオ) - 自然環境の活用
→ 自然光や風、温湿度などを生かして豊かな空間とする提案
参考:三分一博志、SUEP など - 設計手法の開拓
→ 手法自体に着目し、独自の設計へとつなげる提案
参考:⇩『パタン・ランゲージ―環境設計の手引』、ダイアグラム など
- 仔細な観察
→ 普段見逃すような仔細な事物に着目する、発見的な提案
参考:⇩『小さな風景からの学び』、アトリエ・ワン など
- 幾何学の追求
→ 図形的な形態を探求し新たな可能性を提示する提案
参考:ルイス・カーン、ヴァレリオ・オルジャティ、篠原一男 など - アルゴリズムの開発
→コンピューティング技術を駆使してデザインを行う提案
参考:⇩『アルゴリズミック・アーキテクチュア』、noiz architects など
- シークエンス
→ ひと続きの空間を移動していく中で変化のある空間を体験させる提案
参考:ル・コルビュジェ、安藤忠雄 など - 建築エレメントの再考
→ 柱や基礎、窓などの既存のエレメントに対して新たな可能性を提示する提案
参考:仙台メディアテーク(伊東豊雄)、増田信吾+大坪克亘 など - イメージ(記号)
→ 記号的な形を用いて特定の方向へのイメージを誘引する提案
参考:ロバート・ヴェンチューリ、M2(隈研吾) 、Tokyo Apartment(藤本壮介)など - 歴史の参照
→ 過去の文化を解釈し、現代に再編する提案
参考:香川県庁舎(丹下健三)、村野藤吾 など - 時間の積層
→ リノベーションあるいは長期間掛けた計画によって通常の新築では獲得できない質を得ている提案
参考:カステルヴェッキオ美術館(カルロ・スカルパ)、スキーマ建築計画 など
どのワードも雑誌やコンペで見たことがある気がします。
良く勉強できている証拠だね!
コンセプトはこれ以外にもあるから、自分なりにも見つけてみよう!
ちょっと難しそうだけど、参考の建築や本を勉強してみるよ!
コンセプトの考え方や具体例の解説してきました。コンセプトは設計の根幹部分であり、この根幹は絶対に間違えたくない部分です。
コンセプト選定や設計案との整合性はなんとなくで行わずに、時間を掛けて取り組みましょう。
コンセプトとも密接に関わってくる設計課題の重要なポイントを以下の記事で解説しています。
➡︎【超根幹】設計課題は3つの評価軸から成っている
ではでは。